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金利正常化・インフレ・円安時代の資産配分の見直し— 持たざるリスクから、置き場所のリスクへ —
金利が戻ってきた。だから安心。インフレが続いている。だから現預金でよい。円安が進んでいる。だから外貨を少し持てば十分。この三つは、いずれも半分だけ正しく、半分足りません。2026年の日本は、名目金利だけを見て資産防衛を語れる環境ではありません。問題は、金利が上がったかどうかではなく、物価上昇と為替変動を差し引いたあとに、実質的に何が残るのかです。
本レポートでは、前号までの「円安」「相続」「可視化社会」「伝統的ポートフォリオの限界」という流れを踏まえたうえで、今の環境で資産配分をどう組み直すべきかを整理します。結論は明快です。資産防衛の論点は、何を買うかではなく、どう配分し、どこで持つかです。

1. 名目金利の上昇は、安心材料ではない
「金利正常化」という言葉は、安心を連想させます。しかし、資産防衛の現場で重要なのは、名目ではなく実質です。名目金利が上がっても、インフレがそれを上回れば、購買力は静かに削られます。預金は必要ですが、全額を預金で持つことと、流動性資金として持つべき分だけを持つことは別の話です。つまり、金利正常化は「預金が勝つ局面」ではなく、資産クラスの役割を再定義する局面です。
2. 日本の家計金融資産は、なお現金・預金に偏っている
日本の家計金融資産は、2025年6月末時点で約2,240兆円です。なお、図2の国際比較は2024年ベースです。そのうち現金・預金が約50%を占めており、米国やユーロ圏と比べてもかなり高い水準です。日本では長く、現金・預金を厚く持つことが合理的でした。低金利、デフレ、円の安定性が、その前提を支えてきたからです。しかし、その前提は変わりました。インフレが続き、金利が上がり、円安圧力が残る環境では、現金・預金の比率が高すぎると、守っているつもりで実質価値を削っていることになります。問題は、現金を持つことではありません。現金だけで時代を越えようとすることです。

3. 円安時代の論点は、為替予想ではなく通貨ミスマッチ
円安を当てにいくのは難しい。だからといって、円安を無視してよいわけでもありません。見るべきは、為替の方向ではなく、通貨の偏りです。生活費は円で発生し、税金も円で発生し、事業コストも円で発生する。それなのに、資産の大半まで円に偏っていれば、円の購買力低下をそのまま受けます。この局面で必要なのは、単純な外貨購入ではありません。通貨を分けて持つこと、法域を分けて持つこと、流動性を分けて持つことです。ここでの本質は、「円を売る」ことではありません。円で生きるなら、円だけで死なない設計にしておくことです。
4. 伝統的ポートフォリオの限界は、「同時に壊れる」こと
前号で扱った「オルタナティブ3.0」の本質は、商品名ではありません。相関の低い資産を組み合わせ、壊れ方を分散することです。ここでいう「同時に壊れる」とは、株式と債券が別々に動いてリスクを相殺するのではなく、インフレ、金利上昇、円安、地政学、供給制約が重なった局面で、複数の資産クラスが同時に下落・変動し、ポートフォリオ全体の守りが効きにくくなる状態を指します。したがって、今必要なのは「株か債券か」ではありません。現金、債券、株式、オルタナティブを、それぞれの役割に応じて再配分することです。

図3は、資産配分を「商品名」ではなく「役割」で整理したものです。現金は流動性、債券は安定性、株式は成長、オルタナティブは分散と非連動性を担います。重要なのは、リターンだけを追うことではなく、各資産がポートフォリオ全体の中でどの役割を担うのかを明確にすることです。
5. 経営者が見るべきは、会社と個人の同時損失
このテーマは、個人投資家だけの話ではありません。CEO、CFO、オーナー経営者にとっては、法人財務と個人資産が連動していることが本質です。見直すべき論点は、会社の余剰資金をどの通貨で持つか、設備投資・配当・内部留保をどう配分するか、個人資産と法人資産の通貨が一致しすぎていないか、相続や承継のときにどの資産が納税資金になるか、という点です。
ここで起きやすい誤りは、会社では攻め、個人では守る、という分断です。しかし実際には、事業のリスクと家族のリスクは完全には切り離せません。だからこそ、資産配分は投資判断ではなく、財務設計として考える必要があります。
6. 資産配分の見直しは、“持ち方”の見直しでもある
資産配分の見直しは、何を買うかの見直しだけでは終わりません。本当に差が出るのは、その資産をどの器で、どのルールで持つかです。同じ資産でも、保有主体、法域、通貨、流動性の設計が違えば、最終的な守られ方は変わります。つまり、資産配分とは金融商品の選定ではなく、構造設計の問題です。
7. 実務としての見直しポイント
今の資産配分は、金利正常化、インフレ、円安の三つに同時に耐えられるか。この答えが曖昧なら、配分の見直しは先送りできません。重要なのは、特定の商品を増やすことではありません。資産の置き方を変えることです。実務上、まず確認すべきなのは、現預金の比率は高すぎないか、円以外の通貨を持っているか、生活防衛資金と長期資産が混ざっていないか、という点です。さらに、金利上昇で不利になる債券比率が過大でないか、株式の中身は成長とインフレ耐性を持っているか、オルタナティブが名前だけになっていないかも確認すべきです。
8. 結論
利正常化、インフレ、円安。この三つが同時に進む時代に、資産を守る鍵は、銘柄選びではなく、配分と置き場所の設計です。今の配分が、この三条件に耐えられるか。この問いに即答できないなら、見直しのタイミングはすでに来ています。資産防衛とは、増やすことではありません。減らさないために、設計を変えることです。今回の「配分の見直し」をさらに一歩進め、どの器で資産を持つか、という論点を掘り下げることで、所有と支配、法域と通貨、運用と承継が一つの設計図として見えてきます。
